第7回 晴れた日に バスに揺られて 団地まで (後篇)

2022.02.01

髙橋 愛典(高槻市自動車運送事業審議会会長、近畿大学経営学部教授)

(後篇)ちょっと真面目に 観光気分で

さてもう少し、交通の観点からこの団地(答えは写真の中に)を眺めてみたい。

団地内にある大阪都市建築賞のオブジェ

団地の中心、バス停留所の前にコンビニ、ホームセンター、喫茶店が並んでいることは前篇で述べた。しかしスーパーマーケットが見当たらない。
その並びに、団地と比べても真新しいマンションが建っているが、もしかしたらここにスーパーがあったのかもしれない。近年よく見かける、団地やニュータウンの中心にあったスーパーがマンションや福祉施設に建て替わる事例からの想像である。通勤・通学にはバスの便が良いとしても、日々の買い物は団地の中だけでは完結しそうになく、周辺の坂道と相まって、マイカーで買い物に出ることを真っ先に考えざるを得ないのかもしれない。

団地内の大通りでは、我らが高槻市営バスのほかに、病院やスポーツクラブなどの送迎バスも目に付く。団地の外への用事のときにはなるべく市営バスに乗っていただき、それに対応して本数が増えれば一層便利になるはずである。しかし、送迎バスの目的地は市営バスの路線から離れているかもしれないし、例えば病院であれば診察時間とバスのダイヤが合うとは限らない。さらに住民の方々の生活や移動のパターンなど様々な理由が絡み合って、バスの集約・統合は簡単には進まないのであろう。 

団地の風景

「マイクロツーリズム」という造語を耳にするようになった。
コロナ禍などで遠くへ出かけられなくなっても、近場でも観光を楽しもうという意図が込められている。観光とは、古代中国の四書五経の一つ『易経』に由来し…と話し出すと説明が長くなるが、私は観光の「光」とは「光景」を指し、非日常的な「キラキラしたもの」はどれも観光の対象になると考えている。普段は行かない場所を訪ね、そこでの生活に思いを馳せることもまた観光であり、近所であればマイクロツーリズムと呼べる。特に、時節柄マスクをして、黙ってバスに乗ったり歩いたりしているだけならば、誰にも迷惑はかかるまい。

こうして、ごく近所でも見聞を広めることは、意外なところで役に立つ可能性がある。近所のまちでの生活が非日常であるならば、自分が暮らすまちでの日常と比較し、わがまちを客観的に捉える姿勢が身に着くであろう。それが、地元のまちづくりに携わるときに大いに参考になるはずだ。マイクロツーリズムを通じて「近所なのにこんなに暮らしぶりが違うのか…」と唸り、多様性を体感し、そこで暮らす人たちへの共感を養える人は、他のまちづくりの成功例・失敗例を見極めて、地元の日常生活の改善に結びつけられる人だと考える。

(前篇を読む)

プロフィール

髙橋 愛典先生プロフィール写真

髙橋 愛典(たかはし よしのり)
1974年千葉市生まれ。専門は地域交通論、ロジスティクス論。早稲田大学商学部助手、近畿大学商経学部講師などを経て、2013年より近畿大学経営学部教授。2004年以降、高槻市営バスの審議会委員やアドバイザーを歴任し、2019年からは高槻市自動車運送事業審議会会長を務めている。