第6回 晴れた日に バスに揺られて 団地まで(前篇)

2022.01.06

髙橋 愛典(高槻市自動車運送事業審議会会長、近畿大学経営学部教授)

(前篇)なぜにあなたは 団地へゆくの 

高槻市営バスの路線図を広げると、「○○団地」「××住宅」「公団△△」と、いわゆる住宅団地の名が付いた停留所がたくさんあることに気づく(名前のつけ方を統一したほうがいいような気もするが、ここでは置いておく)。

団地を走る高槻市営バス

高槻市の市章は大阪市と京都市の市章を重ねてデザインされたものであり、両市の中間にあることを意味しているが、それゆえに高度成長期以降、高槻市は両市のベッドタウンとなり、このようにたくさんの団地が造成された。その住民を駅や中心市街地まで安全・確実に輸送することは、高槻市営バスの重要な使命の一つであり続けている。

というわけで、ある駅から高槻市営バスに乗って、ある団地を訪れることにした。物見遊山で団地に行くのか!?というお叱りを受けそうであるが、それについては後篇で説明することにして、ともかくバスに乗り込もう。

駅からしばらく、バス通りの割には狭くて曲がりくねった道路を、バスは山手へ進む。道幅が広くなる辺りからは本格的な坂道だ。団地の名の付いた停留所の前にはコンビニとホームセンター、そして喫茶店が並び、なるほど団地の中心である。この団地を選んだ理由はほかでもない。有原啓登氏(大阪府住宅供給公社)がご講演で紹介されており、ピンときたのである。有原氏にはこの場を借りて感謝の意を表したい。

団地の風景

この団地が造成されたのは昭和の終わりから平成の初めにかけてであり、それゆえ築30年前後である。しかし、天気のよさも手伝ってか、住棟は白くキラキラ光って、とてもお洒落な外観である。エレベータのない5階建ての、「外階段型」と呼ばれる、団地としてはごくありふれた設計に違いないのだが、いわゆる団地のイメージとは一線を画している。同じ時期(いいかえればバブル経済とその直後)に造成された首都圏のニュータウンには、全国ネットのドラマやCMのロケが行われたお洒落な大規模マンションがいくつかあったが、それらに勝るとも劣らない。
この時期はすでに、モータリゼーションが行き渡っていたから、マイカーの普及を前提として駐車場が多く設置されているはずであるが、特に住棟の足元では、歩行者と自動車、そして駐車場が自然と調和するように工夫されている。実は私も4歳まで東京都内の団地におり、最も身近な交通機関は駅までのバスであった。団地を離れて20年も経った後、都内で時間ができたのでその団地に行ってみたところ、立体駐車場がたくさんできていて驚いた。昭和50年代前半と平成との間では、いずれの団地でも住民の間のマイカー普及率が、大きく変化していたと思われる。

(後篇へ続く)

プロフィール

髙橋 愛典先生プロフィール写真

髙橋 愛典(たかはし よしのり)
1974年千葉市生まれ。専門は地域交通論、ロジスティクス論。早稲田大学商学部助手、近畿大学商経学部講師などを経て、2013年より近畿大学経営学部教授。2004年以降、高槻市営バスの審議会委員やアドバイザーを歴任し、2019年からは高槻市自動車運送事業審議会会長を務めている。