2022.03.03
1.バスの行先を表示する機器をご存じですか
バスの真正面の上側、私たちのおでこにあたる部分に付けられているのが「行先表示器」と呼ばれる部分です。ここには行先番号や行き先が表示され、自分が乗るのはどのバスなのか知るのに重要な役割を果たしています。
私がうっすらと記憶しているのが行先表示器の部分が布製だったことです。よく覚えているのがフィルムに行き先が印刷されたポリエステル製の行先表示です。これは巻き取り機で行き先がくるくると回り、方向幕と呼ばれています。方向幕は行き先や表示の種類が多いほど長くなり、幕が回されていると様々な表示が見られるので私は楽しくなります。バスのイベントでそのような方向幕を購入しましたが、自宅では広げられないほどの長さです。
高槻市周辺の地域では方向幕が使われているバス社局がありますが、徐々に姿を消しつつあります。それは、路線や行き先の変更にともなう方向幕の取り換えコストや手間が大きいためです。路線や行き先の変更が少ない場合、その部分を新しい方向幕として印刷し、既存の方向幕に切り張りして追加することがあります。しかし、変更の規模が大きい場合は方向幕を新たに印刷しなければなりません。さらに、方向幕の取り換え作業が必要です。
ダイヤ改正の前日までは従来の方向幕で運転しなければなりませんし、翌朝の改正後からは当然新しい方向幕が必要です。そのため、前日に営業を終えたバスから順次新しい方向幕に取り換え、翌朝までにすべてを取り換えなければなりません(翌日に営業しないバス車両もありますが、その数は相対的に少数です)。
2.方向幕からLED表示器へ
方向幕の課題を解決したのがLED表示器です。発光ダイオードを使用したLEDの電照式表示器は、変更されたデータを入れ替えるだけで行先表示の変更が可能です。データの変更に伴う費用は発生しますが、方向幕と比較してその手間は大きく圧縮されたといえるでしょう。
初期のLED表示器は1色(単色)でしたが、現在ではフルカラーのLED表示器の導入が進んでいます。当初、LED表示器は高価でしたが、普及が進み価格が下がってきたのが一因です。そのため、バス社局ではLEDやフルカラーLED表示器の導入が進み、方向幕は姿を消しつつあります。
- <方向幕とフルカラーLEDの違い>
方向幕(京都市交通局)撮影:筆者
- <方向幕とフルカラーLEDの違い>
フルカラーLED(京都市交通局)撮影:筆者
高槻市バスでは2003(平成15)年12月に単色LED表示器の導入が始まり、2005(平成17)年度中にはすべてLED表示器に置き換えられました。
また、フルカラーLED表示器は2017(平成29)年5月から導入が始まり、以降の新車は基本的にフルカラーLED表示器が搭載されています。
- 高槻市バスの単色LED
- フルカラーLED
3.利用者にとっても嬉しい楽しいフルカラーLED表示器
LEDやフルカラーLED表示器はコストや機器の入れ替えの手間が軽減されただけではありません。データが変更しやすいため、必要に応じた短期間限定の表示が作成しやすくなりました。また、フルカラーLED表示器は従来の方向幕並みの再現度を備えているので、多彩な表示が可能です。
そこで、バス社局では通常の行先以外に多彩な表示が行われています。例えば、「回送車」の表示です。単に回送と表示するのではなく、「すみません回送中です」と表示されています。バスを待っていて、バスが来たと思ったら回送だった…とがっかりしてしまう、そんな気持ちを酌んだ表示といえるでしょう。
高槻市バスの「回送」表示は文字こそ回送だけですが、文字の左右に高槻市バスの公式マスコットキャラクター「たかつきばすおくん」がデザインされています。祝日は「たかつきばすおくん」に代わって国旗が描かれています。
また、季節に合わせた回送のデザインが施されています。例えば、お正月や成人式、卒業、入学シーズンなど回送時のバスは特別のデザインが表示されます。詳しくは、高槻市バスホームページの「市営バス図鑑行先表示コレクション」に記載されています。
市営バス図鑑行先表示コレクション
LED表示器の特性は日常の利用時にも活かされています。
それは、2018年から始まった、始発や駅から発車するバスへの「発車時刻の表示」です。JR高槻駅から発車するバスを見ると、行先と発車時刻が交互に表示されています。何時何分発のバスか時刻表を見なくてもわかる便利な表示です。
これは、京阪バスで行われていた案内表示が高槻市バスでも採用され、高槻市バスで実施された後には神戸市バスでも導入されています。利用者にとって好評なサービスがバス社局間で広まった、とても良い事例と言えるでしょう。
街も人も日々変化していきますが、高槻市内を走るバスも日々変化しています。バスを見たら、ぜひ行先表示器に注目してください。
プロフィール
井上 学(いのうえ まなぶ)
立命館大学衣笠総合研究機構 アート・リサーチセンター客員協力研究員 公共交通アドバイザー
専門は交通地理学、近畿圏内で地域公共交通会議や地域公共交通計画等の委員を務めている。高槻市営バスの審議会委員やアドバイザーを歴任し、2019年からは高槻市自動車運送事業審議会委員を務めている。